2023年1-2月号:知床の「ヒミツキチ」
こんにちは!オホーツクハウスを運営する、株式会社トーチのさのです。
1月中の配信予定でしたが、大幅に押してしまい、今回は1−2月号としています。ご了承ください。
前回の配信から季節は真冬を経て2月も後半。寒かったり暖かかったりする季節になりました。今年は大雪だった去年に比べると、雪はそこまで多くないですが、雪がドサッと降る日もあり、今年もまた大変な冬でした。
オホーツクの冬はそんな厳しい自然環境と裏腹に、流氷の接岸など美しい光景がたくさん見れる時期でもあります。コロナの影響も和らぎつつあり、外国人観光客の方々の姿も今年は多く見かけるようになりました。
今回は以前もオホーツクハウスに寄稿していただいた中山さんに書いていただきました!中山さんが共同運営している謎カフェ「ヒミツキチこひつじ」について書いています。謎カフェとは一体…?
それではどうぞ!
ヒミツキチのはなし
またまたビート畑の中からこんにちは!
北海道斜里町でライター業等を営む、中山と申します。
最近の斜里は「しばれる〜〜〜(北海道弁で「凍える」の意)」
流氷が接岸すると、気温がグッと下がり、海鳴りが止み……街は静寂に包まれます。その一方、流氷観光で多くの人々が訪れる時期でもあります。
オホーツクハウスしゃりから徒歩で5〜10分も歩けば、こんな光景が見られます。
今回は、オホーツクハウスしゃりから徒歩4分(350m)、昨年4月に町内の仲間と共同運営でオープンした謎カフェ「ヒミツキチこひつじ」について紹介します。
ヒミツキチこひつじは、
◎薪窯パン店「メーメーベーカリー」
知床が世界自然遺産に登録された2005年から斜里に住む、野生のパン屋こわちゃんが経営するもの。
◎うどん・甘味処「美つ八(みつばち)」
メーメーの旧店舗厨房スタッフであるコジマンマとミツルさんのユニット
◎おにぎりとスープ「梅とら」
オホーツク通信執筆者の一人、ゆきのちゃん。詳しくはこちらの記事をどうぞ!
◎移動古書店「流氷文庫シリエトク」
私。現在、広報や本棚の選書、イベント企画などを担当。
以上がメンバーとしておおむね水・土・日に、日替わりで出店しています。なかなかわかりづらい営業形態と場所なので、開業時は戸惑われる方も多くいらっしゃいました。
はじまりは昨年の初春。メーメーベーカリー店主(以下、メーメー)が商店街の裏通りの片隅にある、昭和40年代築の空き家にひとめぼれしたのがきっかけでした。
徒歩じゃないと見過ごしてしまいそうな物件
「とにかく中を見てみよう!借りられたらここでブックカフェをやろう!」と、強引に押し切られ、知人が大家さんだったのもあり、すぐ内覧する流れになりました。
この時点では、若干、めんどうくさいなあーと思っていたのですが、一歩、中に入ってみると......
壁にブルーのタイルが施された玄関。
あめ色の引き戸やドア。
モダンな雰囲気の階段。
ところどころの模様細工も懐かしく、愛らしい。
と、昭和40年代築、古民家ならではの魅力に心を奪われてしまいました。
しかし中途半端に施されたチープな改装と若干の傾きや薄暗さ気になる…と渋っているところ、メーメーから「直せば可愛くなるって!!!!!」と、さらに強引に押され、結局借りることに…(押しに弱い)。
80代の大家さんは、私たちの試みを面白がってくれ、原状復帰なしで好きにリノベすることを快諾してくれました。
大家さん。オープン日は、だいたい来てくれます。
そして工事が始まるのと同時期に、ちょっとしたミラクルが。
ヒミツキチのすぐそばで、かつてスーパーの事務所だった廃屋の解体が始まったのです。
工事を請け負ってくれた友人・鍋ちゃんの交渉やご近所さんらの力添えのおかげで、廃材をたくさんいただくことができました。木材高騰のこのご時世、本当にありがたかったです。
なんということでしょう。薄暗かった空間は、天井を抜いて吹き抜けにしたとたん、カフェ感が漂い始めました。
ヒミツキチ工事の材料の8割は廃材。譲ってもらえなかったらどうなっていたのやら…。
廃材は床板や壁板として大活躍し、余ったものはテーブルや椅子となり、海外生活の長い大工の鍋ちゃんによる、「なに風(ふう)」とも定義しがたい、味わい深い空間になりました。
商店街の歴史が染み込んだ建物の素材を取り入れたことで、安くおさまっただけではなく、魂を受け継いで、街の一部になれたような、それはなんだか嬉しいアップサイクルでした。
柱や鉄パイプで手づくりした長椅子。
なんだかんだで10ヵ月ほどかかった工事。その間に出店の打合せなどじっくりできたので結果オーライ。
遡って、こちらは1980年代の商店街(塩川義幸さん撮影)。道路は狭かったけれど、いつもにぎわっていたなあ。7月のねぷた祭りでは、身動きどれないくらいの人の波でごった返していました。
パチンコ店や薬局がいくつもあった。
ドンキホーテ的ごった煮感が魅力だった、アンドウ洋品店。区画整理後は移転。
ローカルスーパー「プラザたきかわ」は現在、セイコーマートに。
多くの田舎町の例に洩れず、郊外への大型店の進出などにより駅前商店街は衰退し、約100軒あった事業者は2011年までの区画整理事業で半数になりました。
町外から友人が来たとき散策ツアーを試みた結果、廃墟&空き地ツアーになってしまったことも。
子どもの頃から見てきた商店街の一部となり、微力ながらにぎわいを創出できれば。そんな常套句が自分の口から出る日が来るとは、なんだか今も不思議です。
そんなこんなで2022年4月6日、ヒミツキチこひつじはスタートしました。
店名の由来は
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いつ完成するともわからず、工事過程も公にできず仮称で「秘密基地」と呼んでいた
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「迷える子羊たちも、お気軽にどうぞ」という気持ちで迎えたい
ということから。
悩んでいたところ、前年のクリスマスの夜に降りてきました。
まずお客様が入り始めると、「レトロ感が新鮮」「味がある」など好評で、寂れていた家屋がいきなりイキイキし出したので驚きました。褒めれば伸びる子。
郊外の丘の上にあったメーメーの旧店舗には観光客の方がよくいらしていましたが、ここでは学校帰りの高校生や、買い物ついでのお年寄り、まちなかで働くサラリーマンの方などに利用してもらえることが、うれしかったです。
玄関が地域情報でにぎわうのが夢でした。
プレオープンでは、斜里に通い続けるアーティストのエレナ・トゥタッチコワの作品展が華を添えてくれました。ギャラリー的な活用は今後も続けたいところ。
言い出しっぺのメーメーベーカリー。赤いガラスケースは、5年前に閉店したメーメー旧店舗から続投。
メンバー最年長(70代)にして、一番エネルギッシュなコジマンマ(左)。と、その相棒ミツル(右)さんの「美つ八」コンビ。飽くなき食への追求心がすごい。
黄色いキッチンカーが目印、ゆきのちゃんの「梅とら」。いまやイベントに引っ張りだこ。
「流氷文庫シリエトク」の古本市(不定期開催)。
一方で、古民家ゆえに冬になると寄る年波には勝てず、水道管凍結やらすきま風やら、あちこちメンテナンスに追われる日々。
もともとが一般住宅なのでキッチンは飲食店としては手狭で、いつもスタッフ同士、文字通りわいわい触れ合いながら作業しています。
でも、
食材が必要なら、スーパーみたにまで歩けばいい。
文房具が無くなれば、神田書店に走ればいい。
大工道具が必要なら、五十嵐金物店に駆け込めばいい。
商店街で、必要最低限なものがだいたい手に入る環境は、なんだか大きな巣の中にいるようで心地いいです。
とはいえ、5年後、10年後、それぞれの店は、街は、どうなっていくのか。
店主さんらの少しずつ老いゆく姿を見るたびに、後継者問題が頭をよぎります。
ヒミツキチを開業したとたん元気になったリンゴの木。剪定作業は大事。リンゴはケーキの材料になりました。
「倒木更新」をご存知でしょうか。
倒れた樹木を礎に、新たな世代の若木が育ちます。朽ち木が土に還る途中、次世代の木々の苗床となり、虫や菌もそれらを餌とし、豊かな森がつくられていきます。
この古民家も、かつて馬の蹄鉄屋であり、その後おじいさんと猫たちが暮らした家屋であった歴史を礎に、今、ヒミツキチとしてここに在る。町史には載らないけれど、商店街という生態系の中に、私たちの物語も組み込まれたわけです。
この流れはたぶん、自分に関していえば商店街で楽しく育った思い出の影響が大きいと思います。「なんかすごく面白かったなあ…あれ何だったんだろうな…」みたいな記憶の欠片を、心のよすがにしている。
私たちももちろん老いゆくけれど、誰かにバトンを渡す素地はつくっていきたい。なんだかよくわからない喫茶店として誰かの日常の記憶の一部になれたらいいなあと思っています。
町外のゲストから、いやに好評の商店街夜市「ふらっとナイト」。各店主らの積み立てなどにより1997年から毎月1回、災害以外は雨の日も風の日も、開催しています。
18時30分から道の駅広場で開催。
たくさんのイベントの他に商工会青年部の「感動屋台」や肉のたかはしのカレーパンの販売、バレンタインチョコの販売(数量限定)も行います。
ココアのサービスもあります。
マスクを着用し三密を避けてご参加ください。
暴風雨で畑も冠水したり、家が浸水した人もいたようだし、さすがにやってないかもしれない
と思いきや余裕のよっちゃんで開催していました、#ふらっとナイト @furattonight 道の駅しゃり内にて。
多少の自然災害には動じない、ビンゴゲームに熱中する斜里町民たち。たくましい。
地元による地元のための地道な催しが結果的に観光にもなっている、くらいの空気感がちょうどいい。そういうフラットな、日常の営みこそ見てみたい、という方もいるのではないのでしょうか。
最後にちょっと余談ですが、
このテキストを執筆中、テレビ朝日の長寿番組「タモリ倶楽部」放送終了の報があり、それに対するライムスター宇多丸さんのお話(ラジオ)が、心に染み入りました。
▼書き起こし記事の終盤、同番組を「街の中にある個人商店」に例えるくだりです。
個人的にヒミツキチも商店街において、タモリ倶楽部のごとき隙間的文化を慈しむスポットであれたらと思った次第です。
<information>
ヒミツキチに滞在中のアーティスト二人(榊仁胡さん、若月聡作さん)による作品展「ODYSSEY」を3月26日まで開催しています。ここで暮らしたからこそ生まれた作品たちを観に、ぜひ遊びにいらしてください。
2月某日、アーティストたちにより秘密基地化が著しいヒミツキチ。
そして、オホーツクハウスしゃりをベースキャンプにぜひ、街を散策してみてください。
実は倒木更新のごとく、ヒミツキチ以外にも周辺にちらほら新しいお店が増え出したんですよ。
そのことも、次回はじっくりお伝えできればと思います。
中山さん、とっても充実した内容をまとめていただきありがとうございました!苦節10ヶ月!のヒミツキチ活動のお話でした。地域で楽しむ活動をすること、それが結果として「まちづくり」につながっていることが伝わってきます。
いろいろ活動がある地域には、活動の間口が広がっていて、そこに関わることでその地域の活動が楽しくなってきそうです。いきなり住むのは難しくても、たとえばオホーツクハウスなどに滞在しながら地域の活動におじゃましたりすると、なにか楽しめることや関われることが見つかるかもしれません。次回、新しいお店のお話もとっても楽しみです!
オホーツクハウス通信2年目
去年の11月号に1周年を迎えたオホーツクハウス通信。隔月配信にはなりましたが、2年目もじっくり続けていきます!
そして前回11月号でご案内していたオホーツクハウス宿泊プレゼントにつきまして、当選者にご宿泊いただきました!
オホーツクハウスしゃりは居心地の良い空間、キレイだし。 キッチンやお風呂も付いてて家だった。
とはいえサウナに入りたいので近くのグリーン温泉へ
#オホーツクハウス滞在記
みたには値段がバグっていて最高だった。
しかも、駅もみたにもサチクも温泉もオホーツクハウスから徒歩圏内
#オホーツクハウス滞在記
短期滞在にも長期滞在にも使えるハウス
俺としては何年も通った斜里だけど!いままでと違った斜里の表情が見えて、斜里がもっと好きになりました。
#オホーツクハウス滞在記
とっても楽しんでいただけたようでなによりです!旅行記ありがとうございました。
旅行で使っていただくことが多いですが、近くの方に使っていただいても、地元の魅力を再発見するような遊び方で、また楽しい時間を過ごしていただけます。観光シーズン以外は比較的ゆるくお泊まりいただけるので、ぜひお気軽にお問い合わせください!
例年4月から6月頃は、観光が落ち着くシーズンです。3月には雪が溶け、気温も徐々に暖かくなります。長期滞在でのんびりしたり、リモートワークをしながら滞在するのにはとても良いシーズンです。
ちなみにこの地域の桜は全国で一番遅く、だいたいゴールデンウィーク前後に咲きます。
去年のGW明け、5月9日のオホーツクハウスきよさと。さすがに葉桜ですが、桜はこの時期です
長期滞在のご相談でなくても、オホーツクハウスのウェブサイト上から直接お問い合わせいただけると、他の予約サイトよりお安くご利用いただけます。是非お気軽にお問い合わせください!
今回もお読みいただきありがとうございました!次回は4月ごろにお届けいたします!
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